「すぅー……、すぅー……」

 聖王城の塔の一角。ルルは、修道院に入るまで暮らしていた自室で、深い寝息を立てていた。
 夕食まえという中途半端な時間なのは、やってもやっても終わらない雑務に追われていたからだ。

 ベッドに腰かけたノアは、毛布に包まった彼女に膝枕しながら、健やかな寝顔を見つめていた。

(戴冠式の準備は膨大だ。お疲れになるのも無理はない)

 一角獣たちにひれ伏された『ルルーティカ王女』は、死亡した――と世間ではみなされている――イシュタッドの次の聖王になることが内定した。

 戴冠式までは一年の準備期間がある。
 そのあいだに、各国への連絡と招待状の送付、滞在期間の屋敷と使用人の手配など、賓客をもてなすために必要な用事をすべて片づけるのだ。