「早まるのはお止めなさい、マキャベル殿!」

 大聖堂にルルの声が響く。高い天井に反響していくつも重なった声は、遠吠えのように屋外へと抜けていった。
 罪人の命をも平等にたっとぶルルが眩しかったのだろう。マキャベルは、すっかり老獪《ろうかい》して歪みきった眼をつぶる。

「この国では、重罪をおかしたものは、死ぬまで刑務所から出られない。私が生きつづける理由などない。それならばいっそ、聖教国フィロソフィーが代々守ってきた歴史に名を残して死ぬが本望……」

 マキャベルの腕に力が入る。首筋に刃が当たり、つうっと血が垂れた。

「死んではなりません!」

 ルルが絶叫したそのとき。蹄が土を踏む音が聞こえた。