ジュリオは嫌われ者なので、角がある完全体の一角獣では蹴られてしまう恐れがあった。万全を期すために、マキャベルはあえて弱っている個体を用意させたのだ。

 だが、この一角獣もジュリオが嫌らしい。首にかけられた縄に足を踏ん張って抵抗している。マキャベルは、小声でジュリオに進言した。

「殿下。アレを使うときです」
「そうだね。分からず屋には、力で言うことを聞かせるよりない」

 ジュリオが片方の腕を伸ばすと、急に一角獣が大人しくなった。
 涙ぐむ瞳は虚ろになって、ジュリオの手に頬を寄せていく――。

(さあ、皆に見せるのだ。愚かしいジュリオこそ、次の聖王だと!)

 マキャベルが歪に笑ったそのとき、聖堂を黒い風が駆け抜けた。