「お兄様、それでは密輸に関係していない住民の生活も脅かすことになりますわ。地区を潤しているマキャベルを捕まえるのですから、多かれ少なかれ反発はあるでしょう。罪をあばく側が横暴になると、国民の心が離れかねません。いっそ王族ではなく、ジュリオを聖王に押し上げようという機運が高まるのではありませんか?」

「そうなったら、ジュリオは聖王に相応しくないって、ノワールに託宣させる」
「私は正体をさらしたくありません」

「ノアがこう言っているから、託宣はやめてあげて。私は、お兄様の内定式には出ていないからお聞きしたいのだけれど、どんな風に行われるの?」

 父からイシュタッドに聖王が代替わりしたとき、ルルは修道院から出なかった。お祝いしたかったが、当人に手紙で来るなと言われてしまったのだ。
 イシュタッドは飽き飽きした様子で、テーブルに足を乗せた。