「ノアがそばにいてくれたら、少しは頑張れそう……。そうだわ。腕が透けてしまわないように、ちゃんと渡しておくわね」

 ルルは、手を伸ばしてたぐり寄せた巾着から金貨を一枚取り出すと、ノアの鼻先に押し当てた。

「はい。一晩、わたしを守ってくれる分の代償よ」
「ありがとうございます。守る分はこれで十分ですが、一晩気持ちを抑えるには足りないので、別のものをいただいても?」
「渡せるものならいいけど。気持ちを抑えるとは……?」

 ルルはうーんと考える。ノアは黙って、悩む様子を見つめていた。

 最古の聖王を選んだ二角獣も、こんな風に愛しさを募らせていたのだろうか。
 何も知らない相手を何も知らないまま残しておきたいと思いながら、ぐずぐずに溶けて一つになってしまいたいという渇望を抱いたことはあっただろうか。