目を閉じたノアは、研究所で人間への恨みや憎しみを募らせていた頃を思い出す。

「ルルーティカ様は、檻に捕えられていた私を助けてくださった。暴走して周りを破壊する私を止めようと立ち塞がりもした。幼い頃から優しく勇敢で、ご両親から酷い目に合わされても恨まずに、イシュタッド陛下の言いつけを守って、修道院で清らかに生きてこられた――」

 教会に押し入ったとき、壁のくぼみで丸くなっていたルルは、頭から白いベールを被ったように輝いて見えた。
 ノアが騎士学校や聖騎士団で見知った『人間』は、大なり小なり欲や見栄や嘘を塗り固めてできていたのに、小さな礼拝室にいた彼女はまっさらだった。

 余分も不足もなく満ち足りていたルルをこそ聖なると表現するなら、彼女こそ聖王に相応しいと思った。