その晩、イシュタッドに客室を案内したノアは、ルルが使っている部屋に入った。

 応接間のソファに姿が見えないと思ったら、すっかり寝る支度を調えられて、ベッドにあがっていた。

 兄から「聖王になれ」と言われたのを腹にすえかねているらしく、クッションを抱えてむくれている。
 思わず笑ってしまうと、ルルにギンと睨みつけられた。

「笑いごとではないわ。お兄様まで、わたしを聖王にしようとするなんて! しかも完全に私的な理由でよ。信じられないわ」
「イシュタッド陛下は元からそういう人間でしょう。私利私欲が強すぎるので、聖王に相応しい器ではないと思っていました」

 最古の戴冠式では、一角獣《ユニコーン》の王――すなわち二角獣《バイコーン》に選ばれた人間が聖王の座についた。