「明るみにしたところで密輸はなくならない。港があるのはユーディト地区だけではない。海路を警戒されたら陸路から。どこかの誰かがやり始める。魔晶石を高値で買うやつらがいるかぎりな。暴き方によっては、聖教国フィロソフィーとガレアクトラ帝国の仲を悪くするだけだ」

 イシュタッドは、一角獣保護法を作るほどの一角獣好き。密輸を止められるなら、人の迷惑など考えない性格だ。
 しかし、この件には、やたらと慎重だった。

「武力で侵攻されればこちらが負ける。戦争を避けるには、密輸問題を平和的に解決する意思があるという姿勢を見せて、ガレアクトラ帝国を懐柔する必要がある。俺様が聖王の座についていたら、駒としては強すぎるんだよ。弱さを見せて相手の懐に入り込むには、ルルが適任だ」
「わたしを聖王に奉りあげて、お兄様は誰と戦おうとなさっているのですか?」
「……ヘレネー……」

 イシュタッドの口から出た名前に、ルルは息をのんだ。