「君たち。お兄ちゃんの存在をお忘れだな?」

 岩場のかげから姿を現わしたイシュタッドは、くっつく二人に面白くなさそうな顔を向けた。

「ルルといちゃいちゃしたいなら、服を着替えて、飯食って、俺様に『妹さんを真剣にお慕いしているんです』って土下座してからにしろ。まずは、崖をのぼって安全にユーディト地区を出るところからだ。ここは敵が多すぎる」
「そうでしたわね」

 ルルはノアから身をはなして考えた。

 ここから港は遠いので、泳いでいくのはほぼ不可能だ。
 沖にいる船に助けを求めるのも避けたい。ジュリオの息が掛かった船員たちに、聖教国フィロソフィーの聖王と王女だと気づかれれば、簀巻きにされて海に落とされるだろう。

 助けを待つのは期待薄だ。誰もルルたちがここにいることを知らないのだから。