「どうしよう、渡せるものを持っていないわ。金貨を入れていた袋は、逃げるときに放り投げてしまったもの」
「金貨は、もういりません。私がルルーティカ様からもらいたいのは、金貨ではないのです」
「それはなに? わたしは、なにを渡したらいいの?」

 無垢な表情で見つめられて、ノアは困ってしまった。

「…………もらえません。もらったら、貴方が無くなってしまう」

 見つめ合う二人の間を、強い海風が間を通りすぎた。ルルの銀色の髪を吹き散らした風は、崖に当たって上へと抜けていく。

 薄い青の絵の具を刷いたような一面の空を、真白い一角獣が飛んでいった。
 どんどんと高度を上げて、砂浜に落とした砂粒のように見えなくなる。
 朝の風に乗って、天空に帰るのだろう。