「すぅー、すぅー……」

 イシュタッドの隣で眠るルルーティカの寝息に耳をそばだてていたノアは、表が明るくなり始めたのに気づいて洞窟の外に出た。

 岩場のかげで人間の姿をとり、大きな流木に腰かける。崖から落ちる際に多くの魔力を使ってしまったので、形を保つのがやっとだ。
 手袋を外して袖をまくると、両腕がひじの辺りまで透けている。

「また、代償なく、尽くしてしまった……」

 研究所跡で金貨が入った巾着を渡されたとき、一枚でも手元に残しておけばよかった。ルルが気まぐれに渡した物でも、ノアにとっては大きな意味がある。

 二角獣《バイコーン》は本来、人には懐かない。強大な魔力を利用されないように、人を嫌う性質を持って生まれてくる。
 わけあって人に力を貸す場合は、必ず『それ相応の代償』を払ってもらう。