「それからはここで、何にも持たない海辺暮らしだ。下手に救援を呼ぶと、大司教の息が掛かった者たちが来るからな。救出のどさくさに紛れて殺されたらたまらない。幸いにも、炎は自力で起こせるし、奥にある洞窟に真水が沸いているから、魚とか海の幸を取って食ってた。魚を取るために服から網までつくったんだぞ」

 ルルのショールの隣に、布をよって作った網がある。一国の主上にしては、すさまじいサバイバル力だ。

『悪者ほど殺しても死なないと言いますからね』

 ノアのつぶやきを聞き取って、イシュは足下の小石を蹴った。

「邪悪で凶暴な猛獣がなにをいう。お前が研究所を破壊したのを隠蔽したのは誰だと思ってる。博士の息子として生きられるようにしてやった恩も、忘れたとは言わせないぞ」
『感謝はしてやっています。だから、貴方の聖騎士にもなったでしょう』

「はー。そういうこと言っちゃう? 感謝してる人間は、嫌そうな顔で叙任を受けたりしないんですー」
『貴方の、その人柄が嫌なんです。従いたくない』