「たぶんお前と同じ。ユーディト地区の羽振りの良さから、密輸の疑いをもって個人的に捜査しに来たんだ。研究所跡で檻を見つけて、一角獣を逃がすために檻を壊そうとしたら司教たちに見つかって、屋根のはしに追い詰められて飛び降りた」
「聖王に向かってなんてことを……!」

 ルルは大司教に怒りを覚えた。彼らは、密輸の事実を隠すために、この国の頂点に立つ兄まで殺そうとしたのだ。決して許される行いではない。

「お兄様、よくご無事でいらっしゃいました。カントでは、もはや生存も危ぶまれておりましたわ」
「一応、これでも聖王なもんで。海に落ちるとき、持てる魔力を全部使ってスピード弱めたんだ。浅瀬じゃなかったのが救いだったな。昔から運はいいけど、今回ばかりは死んだと思ったぜ」

 上を見ると、切り立った崖がどこまでも続いている。とてつもない高さから落ちたのだと、ルルは今さらながらぞっとした。
 イシュタッドは、焦げた枝をつかんで魚の腹に歯を立てた。