ノアはルルのネグリジェの衿を噛んで、崖の真下へと向かった。たくましい四足は、草原を走るように海面を駆けていく。
 近づく陸地がチラチラと光っているので、小さな灯台でもあるのかと思ったら、どうやら炎が焚かれているようだ。

(こんなところに人が?)

 大きな岩を別けて狭い砂浜に上陸すると、炎のそばで一人の人間が立ち上がった。枝に刺した魚を炙っていたのは、上半身が裸の青年だった。

 ボロボロに裂いた布きれを腰に巻いていて、日焼けした肌は筋肉質。オレンジの炎色を映す銀髪は細く、かき上げたスタイルで固まっている。

「お前、ノワールか?」

 二角獣を見ても動じないどころか正体を言い当てた青年に、ルルは飛び上がるほど驚いた。
 
「イシュタッドお兄様っ!?」