巨大な体躯は、ルルを乗せても背中に余りがある。体は黒くてキルケゴールと似ているが、頭にある角は二本。しかも、左の方は根元付近で折れている。

(研究所で捕らわれていた二角獣と同じだわ)

「ノアなの?」

 真っ赤な瞳を覗きこんで言うと、避けるように伏せられた。
 それを見て直感する。これは、絶対にノアだ。

 彼は、いじったらしいほど尽くしてくれるのに、大事なことは言葉少ないのである。

「人に化けられるなんて知らなかったわ。事故のあと、私を背負って病院に連れて行ってくれたのは貴方だったのね。町を壊さないでくれてありがとう。ずっと会ってお礼を言いたかったのよ――」

 そのとき、ズンと高度が下がった。
 ノアの翼からじょじょに力が抜けていく。