大司教の手から一際大きな矢が放たれて、ルルを目がけて豪速で飛んできた。

「ルルーティカ様!」

 ノアは、剣を放り捨ててルルを抱きしめ、屋根から身を投げた。
 光の矢は、騎士服の裾を貫いて、夜空へと消えた。
 ルルの魔力は体を離れて大司教へと向かっていったが、攻撃できたかどうか分からない。

 海へと真っ逆さまに落ちる体は、空気の摩擦と無重力感にさらされる。
 耳をすり切られそうな激しい風の音を聞きながら、ルルはノアの胸元にしがみついた。

 結局、兄を見つけられなかった。ジュリオが聖王になるのも防げなかったし、巣ごもり生活に戻ることも遠い夢物語になってしまった。

(私の人生は、これでおしまい――?)

 怖くて震えていると、ノアの吐息に混じって懐かしい響きがした。

『貴方は、私が守ります』