わけが分からない様子の司教に、ノアがいかめしく言い添えた。

「この御方は、ルルーティカ・イル・フィロソフィー王女殿下だ」
「王女っっ?!」

 飛び上がった司教は、聖堂を走って上役に伝えにいった。
 王女の訪問はあっという間に教会中に広まり、ユーディト地区の教会をまとめる大司教が、手下の司教を四人も連れて現われた。

「ようこそおいでくださいました、ルルーティカ王女殿下。書状への返信が遅れまして申し訳ございませんでした」

 しわくちゃな顔は柔和で心優しそうだ。
 だが、頭に被った司教冠《ミトラ》に金のチェーンがついていたり、首や指を魔晶石の宝飾品で飾っていたりと、質素倹約の精神とはかけ離れている。
 後ろに連なった四人も、でっぷりと太っていた。
 
(枢機卿団が各地に配分している助成金は、ユーディト地区がだんとつで多いんだったわね)