「そこは入っちゃだめだよ」

 ぎゅうっと柵をつかむルルに、観光協会のたすきを掛けたおばさんが話しかけてきた。

「向こうに見えるのは、人工魔晶石の研究をしてた施設でね。爆発事故が起きてから、魔力の良くない影響があるってんで、誰も立ち入れないようになってるのさ。無視して入っちまうと『二角獣《バイコーン》』に追っかけられるって噂もある」
「二角獣、ですか?」

 二角獣は幻の存在だ。たまに目撃例があがるものの、木の枝と一角獣《ユニコーン》が重なって見えたんだろうと片付けられる、幽霊みたいなものである。

 おばさんは、ユーディト地区の地図を差し出して言う。

「なんでもあそこは、二角獣を捕獲して、人工魔晶石に魔力を込める実験をしていたらしいよ。事故で研究者はみんな死んじまって、二角獣も見つからなかったから、作り話だと思うけどね。あんたら、宿が決まってなかったらうちにおいでよ。二つ通りの向こうで、海の幸を使った飯が自慢の民宿をやってんだ。ユーディトの昔話もたくさんしてあげるよ」