ノアは、一角獣《ユニコーン》のようには、純粋に人を慕えない。

 相手は聖王になるべき崇高な存在だ。距離は保って当然で、いくら愛らしい人間だからといって、ここまで肩入れするつもりはなかった。

 自省しなければ自分に跳ね返ってくると自覚していたのに。
 接触を避けて思いを鎮めようとしたのに。
 なけなしの努力は、手を伸ばされた瞬間に弾けてしまった。

 ノアは、手袋を外して、ルルの顔に落ちた髪を耳にかけた。
 ぼんやりした輪郭を残して透けた手は、ほとんど消えかかっている。

 自業自得だ。本性のおきてを破っているのだから。

「好きです、ルルーティカ様……」

 彼女には聞こえないと分かっていて、口にする。
 届かなくてもいい。ただ、自分に認めさせたかった。

 抗えない愛しさが凶器になったとして、破滅するのは自分だけだ。
 姿を保てなくなって、そばにいられなくなるまで、ノアはルルを愛し尽くそうと誓ったのだった。