「暖炉があったら服を乾かせたけれど、我がままは言えないわね」
「炎なら私が出せます」

 ルルの外套を壁に吊していたノアは、火鉢に手袋をはめた手を近づけた。
 炭から青白い炎が吹き出して、まるで薪をくべた暖炉のようにメラメラと燃え上がる。肌に感じる温かさに、ルルはほうっと頬を染めた。

「温かいわ。ノアの魔法はすごいわね」
「ルルーティカ様ならばさらに強い魔法を扱えます。普段は使えないだけで、魔力は確かにあるのですから」
「自分の意思で使えないなら無いのと同じよ。炎が強いうちに、濡れた物を乾かしてしまわないとね」

 ルルが着ていたワンピースに手をかけると、ノアはくるりと壁の方を向いた。着替えを見ないようにという配慮だ。
 泊まる部屋には居間やバスルームがついていないため、別室に控えることができないのであえる。