「一般客と同じ車両で我慢してください。一等席の個室は、追っ手に一室ずつ探されて、狙い撃ちにされる可能性がありますので」

「個室よりこっちの方がずっといいわ。賑やかで退屈しないもの。わたし、汽車には久しぶりに乗るの。前にユーディト地区へ行って以来じゃないかしら? あのときは動力に魔晶石が使われていたから、あっという間に着いてがっかりしたのよ」

 ルルが楽しそうだったので、ノアは安堵の息を吐いた。
 固い座席についたルルの手を上から包み込んで、赤い瞳を伏せる。

「しばらく二人きりですね」
「そ、そうね……」

 手袋ごしでも冷たい手と、大人びた横顔にドキリとして、ルルも下を向いた。

(忘れてた。わたしとノアは、すれ違っていたんだったわ)

 ムードメーカーたるアンジェラなしで、ギクシャクせずに過ごせるだろうか。
 ルルの心配をよそに、汽笛を鳴らした車両は、ゆっくりと走り出したのだった。