ガレアクトラ軍人の乗合馬車は、距離をとりながら付いてくる。
 馭者がいないにもかかわらず、黒い一角獣は迷う事なく、まっすぐにマロニー地区への街道をひた走った――。

 その様子を、城塞のうえから見守っていたのは、古着屋で買ったワンピースを身につけたルルと、ルルのトランクを提げたノアだった。
 キルケゴールが引く客車に乗っているのは、ルルが着ていたドレスを身にまとったアンジェラだ。彼らは囮になってくれたのである。
 
「マロニー地区への街道ぞいは宿屋や飯屋があるので、襲撃される危険性は低いでしょう。キルケゴールには、ある程度すすんだら道を引き返して、キルケシュタイン邸に逃げ込むように伝えてあります。今のうちに、ユーディト地区へ向かいましょう」

 二人で向かった駅には、長距離の汽車が止まっていた。
 ノアは二人分の切符を買って、一般客がまばらに乗っている車両に入ると、二人掛けの席にルルを窓際にして座った。
 トランクを開けて、中から取り出した毛布をルルの体にかける。