「いいか、ルルーティカ。何があっても屋敷からでるなよ?」
「え……えっと、」

 アンジェラに言われて、ルルは食堂の椅子に座ったまま目を泳がせた。
 彼女の手には、お茶を飲みほしたカップと空になったケーキ用の小皿がある。ちょうど午後のお茶の時間を終えたばかりだ。

 晩餐会の夜から、五日が経とうとしている。
 ルルが魔晶石を通して見た、兄イシュタッドがいた場所は、恐らくユーディト地区だと思われた。
 突撃しようにも、たった三人ではろくな捜索はできないので、慈善訪問という体であちこちに顔を出せるように準備をすすめているところだ。

 気がかりなのは、その間、カントで問題が起こらないかということ。

(ガレアクトラの軍人は、あの晩餐会の夜を境に、たびたび酔っぱらって暴れたり、フィロソフィー人を見下すような発言をしたり、あちこちで騒ぎを起こしているわ)