励ますようにヴォーヴナルグの手に触れる。と、指先が魔晶石についた。
 その瞬間。

 ざあっと吹いた風に、ルルの意識は引っ張られた。

 座っているソファごと、見知らぬ草原に移動している。ルルの目からは、崖に建った崩れかけの建物と、その奥に広がる大海原が見えた。

 それらを背景にして、ルルに背を向けて立っているのは。

「お兄様?」

 ぽつりとつぶやくと、上背の高い後ろ姿が振り返りかけた。
 顔が見える寸前で、眼前に広がった世界は、絵画がくしゃくしゃに握りしめられたように収束して、消えてしまった。

 気づけば、ルルは、先ほどまでと同じくヴォーヴナルグの手に触れた姿勢でいた。