ジュリオに手を差し出されて、ルルは動揺した。
 今日のためにヴォーヴナルグとダンスの練習を重ねてきたけれど、他の人間と踊ることは考えていなかった。
 会場を見回すが、聖騎士団長の姿は見えない。

(晩餐会が予定より早く終わっちゃったから、まだ到着していないんだわ!)

 彼は今日も仕事である。食事が終わるころに会場に来て、ルルと一曲踊って、周囲に好印象を与えて帰る……という完璧な筋書きだった。

(どうしよう)

 ルルはダンスが下手だ。ヴォーヴナルグ以外の男性と足並みをそろえることは不可能である。
 ダンスをしていたつもりが、キリのように細いヒールで相手の足を踏みつける格闘技になりかねない。

 だが、目の前に出された手の平を拒絶することもできないのだ。