深く頭を下げる司教に、ルルは「お役に立てて光栄ですわ」と答えた。

「修道院のベンチに掛けられていた、古い毛織りの布がマロニーと呼ばれていたので、気になって調べていたのです。歴史書によると、マロニー地区は、古くは一角獣のたてがみを梳いて毛織物を作り、野菜を煮出してさまざまな色合いに染めて、良質な布を生産していたのだとか。野菜を他の地区に売り渡すようになって毛織り染めの技術はなくなりましたが、復興したら農地を立て直すまでの収入源になると思いましたの。その後、製造はすすんでいますか?」

「おかげさまで。売り上げも好調で、マロニー地区は貧しくならずに、復興がすすんでおります。この幸いは、ルルーティカ王女殿下のお知恵があってこそです」

 司教の言葉は、新聞にのった慈善訪問の記事よりも、大勢の人の心に響いた。
 参加者は、こそこそと話し始める。

「修道院にいたせいで世間知らずなんて大嘘ではないか」
「お若いのに、フィロソフィーの歴史をよく勉強しておられるのう」

「すぐにお見舞い金を出すことで、マロニー地区の住民を救ったのですね」
「枢機卿団は王女を見下しているが、我らが思っている以上に聡明な方だ」