◇ ◇ ◇


 キルケシュタイン邸の一階ホール。蓄音機から流れるワルツの旋律に合わせて、ルルはヴォーヴナルグと手を取り合って踊っていた。

「まさか、ダンスの相手を頼まれるとは思わなかったぜ」

 晩餐会では、社交ダンスも行われる。これこそ『ルルーティカ王女はダメ人間』ムーブをかますための余興だろう。

 エスコート相手を見つけられず、誰にもダンスに誘われず、惨めに壁の花になっているのを嗤われるだけならまだいい。
 ノアやアンジェラといった近衛と踊ってしまうと、一部の崇敬者を取りこんで王女の体裁を保っているだけだと誤解されかねない。

 ルルをエスコートする相手は、普段から『ルルーティカ王女』に付き従っていない人間が好ましい。聖教国フィロソフィーでひとかどの人間であれば、いっそう。