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公園の桜の木が、ザワザワと揺れた。
たとえ風が吹いても、桜は台風の風に流されて、降ってはこないけれど。
天気はどんよりと曇り、まるで私達の空気を読むかのように、重くなっていく。
「……どうゆう事?」
「そのまんまの意味だよ……」
「そうじゃなくて!!」
彼は何も知らないような顔をして、あるいは何かを見下すような、「お前もあっち側の人間なのか」と突き放す様な目をしてた。
そんな目をしていても、私のことは「友達止まりでいようね」なんて言うのか……。
いや、その時の私は、彼が精一杯の気持ちでこの出来事を話してくれたことをネガティブに考えていたんだ。
決して突き放したりなんてしていなかったんだ。
だけど、私は耐えきれなかった。
「……どうして、今そんなこと言うの!! 付き合ってる時に話してくれればよかったじゃない!! 私を信じてなかったの? 私、尽くしたんだよ!!真斗くんに!! そんでもって、どうして私に別れた後、こう優しくしてくれるの……? ここはもういじめたこと黙って、「いいんじゃない」ってなんで言ってくれないの!! もう、付き合ってもくれないくせに!!」
ーー嫌なら、元彼の相手なんてしなければいい。
そう思う人もいるだろう。でも、その言葉が聞こえないぐらいに私は彼の事が好きだった。愛していた。本当に愛している以外の言葉が見つからないくらい。
その後の関係のことだって、気まずくなりたくなんてなかったから、いつも通り別れた後も「友達」として付き合っていた。
好きと言う言葉を押し殺して。殺しても、殺しても、好きという言葉が浮かんでくるけれど。
真斗くんは、私がどれだけ我慢しているのか知らない。知らないからこんな事が言えるんだ。
私は、都合のいい女なんだろうか。彼にとって。
「嫌いではないけれど、付き合っていた頃より好きではない。友達でいよう」といったところだろうか。
私はそれが辛い。もう楽になりたい。だって、彼の事こんなに好きなのに、もう手に入らない。
伸ばしても、伸ばしても、影は遠のいていくように、辛い。
「……真斗くんは、私にどうして欲しいの? 好きじゃないんでしょ? なら黙って、「おめでとう」って言えばいいじゃん……というか、言って欲しいよ……」
ーー自分が相談なんてするからだ。
そう頭の中で過ぎる。
でも、彼との関係を壊したくなかったから仕方なく相談したんだ。いやでもーー。
堂々巡りの頭の中。
答えの出ない答えに、終止符を打った。
「僕ね……杏里ちゃんに幸せになって欲しいんだ……。あんなクズ男と一緒になって、辛い思いして欲しくない」
ーー杏里ちゃん。
昔の呼び名でないことに、ズキリと、心が痛む。
ーー杏里。
昔はこう呼んでたのにね……。
そして、好きでもないのに「幸せになって欲しい」だなんて……。
「じゃあ……そこまで言うんなら付き合ってよ……これ以上好きにさせないでよ!!」
それが、私の精一杯の気持ちだった。
私は、彼と別れた時から、何かが変わった。寝ても覚めても、彼の事が頭から離れなくて、ご飯も通らない。
他の事で気を逸らそうとしても、集中できず、ドジばかり。
今まで、話しかけれていたはずなのに、今では内気になって人を避けている自分。
全部が彼のせいじゃない。
でも、でもーー。
彼が関係しているのは、間違いなかった。早く忘れないといけない対象である事は変わりなかった。
そうして、暗くなった自分を皆は避けるようになり、話しかけてもらえるチャンスも少なくなりつつあった。
だから、今回話しかけてくれた梓くんに賭けるかどうか迷ってる。
このチャンスを逃したら、私一生このまま、真斗くんという沼にハマって出てこれないかもしれない。
「ごめん……付き合うのは、無理……かな」
私達は数秒の間、公園の中心に立ち尽くしていた。
そして、数秒たった後、口を開いた。
「……もう、友達もやめよう。このままだと、……壊れちゃう。たとえ裏切られても今は、私を見てくれる人に頼りたい……だから……」
私は、スマホを取り出し、真斗くんの前に差し出した。
「全て、終わらそう……お願い」
真斗くんは一瞬深い黒色の目をしていたが、「……君がそれで幸せになるなら」と言って連絡先を消した。

