七月に入れば、夏本番。
もうすぐ夏休み!
なんだけど……。
「まとめテストは来週からでーす。みなさん、いつもどおりがんばってね」
担任の村岡先生が笑顔で言った。
クラスのみんなは「うげー」と声を上げている。
わたしも声は出さなかったけど、そう思ったひとりだ。
「うえー、やだなーテスト……」
そう吐き出したのは、隣の席のアカネちゃんだ。
アカネちゃんは机に突っ伏して、しかめっ面を浮かべている。
「ほんとだよねぇ」
「ヒカリちゃんはいいじゃん! 頭いいもん!」
アカネちゃんが吠えてきた。
「そ、そんなことないよ……! わたしも勉強しないとできないし……」
「私は勉強してもできないんだよー!」
アカネちゃんはまた、机に突っ伏してしまった。
「一緒に勉強しよ? まだ時間はあるんだし」
わたしはアカネちゃんの肩に手を置いた。
アカネちゃんはゆっくり顔を上げる。
「ヒカリちゃん……」
アカネちゃんの目が潤んでくる。
「ありがとー! 大好き!」
勢いよくアカネちゃんが抱きついてきて、わたしは倒れるところだった。
☆☆☆
なんにも不安になることなんて、ないはずだ。
「おうおう、今日はなんの悩みだー?」
わたしはパグの前に立っていた。
「なんでパグが出てくるの?」
「それはこっちのセリフだよ」
パグがガクッとずっこけた。
「最初っから言ってるように、ここはヒカリの夢の中だ。ヒカリの心の状態に合わせて形を変える。なにか悩んでねーなら悪夢は見ないんだよ」
たしかにそう言ってた……。
だけど、今のわたしには、本当に悩んでいることなんてないんだ。
「あるいは、深層心理に潜む悪夢なのかもな」
「しんそうしんり?」
「心の奥深くってことだ。自分でも気づかないうちに、悪夢になる原因が心の奥底にできちまってるのかもしれない」
そんな……。
そんなのどうやって解決したらいいの……?
だけどパグはニッと笑った。
「でも悪夢の影は現れてる。もう半分は解決したようなモンだ」
たしかにわたしは、影に追いかけられてここまで来た。
それはなんだかペラペラした一反木綿みたいなものだった。
それがなんなのか、全然想像もつかない。
今日追いかけてきた一反木綿は、さっきパグが切ってしまっていた。
「なんだろうなー、アレ」
パグも首をかしげている。
結局その日は、答えが出ることはなかった。
☆☆☆
まとめテストまであと六日。
わたしとアカネちゃんは、放課後の教室で机を向かい合わせていた。
「えっと……、ここがこうなるから」
「あっ、そっかわかった! 答えは3!?」
「じゃなくて……」
アカネちゃんに算数を教えるのは、なかなか難しいことだった。
順を追って教えようとするけど、アカネちゃんは先走ってしまうのだ。
こんなんでテスト大丈夫なのかな……。
「あ、こうか。5だね」
冷静に解き始めたアカネちゃんは、正しい答えをみちびき出した。
「そうだよアカネちゃん! やればできるじゃん!」
言った瞬間、アカネちゃんがぷくーっとほっぺたを膨らませてしまった。
「……ヒカリちゃん、私のことバカだと思ってるでしょ」
「!? そんなことないよ!? 今だって、落ちついてやればちゃんとできたじゃん!」
アカネちゃんはシャーペンを投げ出して、机に頬杖をついた。
「そうなんだよねぇ。バドでもいつも先生に『落ちついてシャトルを見ろ』って言われるもん。わかってはいるんだけどさぁ……」
わたしはびっくりした。
バドミントンでは、向かうところ敵なしのアカネちゃんだ。
そんな風に弱気な顔を見せるなんて、はじめてのことだった。
「そんなことないよ!」
気づけば、わたしは大きな声を出していた。
アカネちゃんは驚いた顔をしている。
「バドやってるアカネちゃんは、強くてかっこよくて……わたしのあこがれだもん! どんな相手も倒しちゃうアカネちゃんはすごいんだから! だからまとめテストなんて簡単に乗り切っちゃうんだから!」
一気にわたしは言って、息を切らせていた。
こんなに大声を出したのは、はじめてかもしれない。
アカネちゃんはあっけに取られてしばらく目をパチパチさせたあと、にっこり笑った。
「ありがと。ヒカリちゃんにそこまで言われちゃ、がんばらないわけにはいかないねー。次、ここ教えてくれる? ヒカリちゃんの説明、ていねいでわかりやすいよー」
アカネちゃんはシャーペンで問題を指し示す。
わたしはアカネちゃんにそう言ってもらえたことが嬉しくて、口元がにやけそうになってしまった。
「あ」
ふと浮かんだ考えに、小さく声がもれる。
「どうしたの?」
不思議そうに顔を上げるアカネちゃんに、わたしは「なんでもない」と返した。
確かめるのは今夜だ。
もうすぐ夏休み!
なんだけど……。
「まとめテストは来週からでーす。みなさん、いつもどおりがんばってね」
担任の村岡先生が笑顔で言った。
クラスのみんなは「うげー」と声を上げている。
わたしも声は出さなかったけど、そう思ったひとりだ。
「うえー、やだなーテスト……」
そう吐き出したのは、隣の席のアカネちゃんだ。
アカネちゃんは机に突っ伏して、しかめっ面を浮かべている。
「ほんとだよねぇ」
「ヒカリちゃんはいいじゃん! 頭いいもん!」
アカネちゃんが吠えてきた。
「そ、そんなことないよ……! わたしも勉強しないとできないし……」
「私は勉強してもできないんだよー!」
アカネちゃんはまた、机に突っ伏してしまった。
「一緒に勉強しよ? まだ時間はあるんだし」
わたしはアカネちゃんの肩に手を置いた。
アカネちゃんはゆっくり顔を上げる。
「ヒカリちゃん……」
アカネちゃんの目が潤んでくる。
「ありがとー! 大好き!」
勢いよくアカネちゃんが抱きついてきて、わたしは倒れるところだった。
☆☆☆
なんにも不安になることなんて、ないはずだ。
「おうおう、今日はなんの悩みだー?」
わたしはパグの前に立っていた。
「なんでパグが出てくるの?」
「それはこっちのセリフだよ」
パグがガクッとずっこけた。
「最初っから言ってるように、ここはヒカリの夢の中だ。ヒカリの心の状態に合わせて形を変える。なにか悩んでねーなら悪夢は見ないんだよ」
たしかにそう言ってた……。
だけど、今のわたしには、本当に悩んでいることなんてないんだ。
「あるいは、深層心理に潜む悪夢なのかもな」
「しんそうしんり?」
「心の奥深くってことだ。自分でも気づかないうちに、悪夢になる原因が心の奥底にできちまってるのかもしれない」
そんな……。
そんなのどうやって解決したらいいの……?
だけどパグはニッと笑った。
「でも悪夢の影は現れてる。もう半分は解決したようなモンだ」
たしかにわたしは、影に追いかけられてここまで来た。
それはなんだかペラペラした一反木綿みたいなものだった。
それがなんなのか、全然想像もつかない。
今日追いかけてきた一反木綿は、さっきパグが切ってしまっていた。
「なんだろうなー、アレ」
パグも首をかしげている。
結局その日は、答えが出ることはなかった。
☆☆☆
まとめテストまであと六日。
わたしとアカネちゃんは、放課後の教室で机を向かい合わせていた。
「えっと……、ここがこうなるから」
「あっ、そっかわかった! 答えは3!?」
「じゃなくて……」
アカネちゃんに算数を教えるのは、なかなか難しいことだった。
順を追って教えようとするけど、アカネちゃんは先走ってしまうのだ。
こんなんでテスト大丈夫なのかな……。
「あ、こうか。5だね」
冷静に解き始めたアカネちゃんは、正しい答えをみちびき出した。
「そうだよアカネちゃん! やればできるじゃん!」
言った瞬間、アカネちゃんがぷくーっとほっぺたを膨らませてしまった。
「……ヒカリちゃん、私のことバカだと思ってるでしょ」
「!? そんなことないよ!? 今だって、落ちついてやればちゃんとできたじゃん!」
アカネちゃんはシャーペンを投げ出して、机に頬杖をついた。
「そうなんだよねぇ。バドでもいつも先生に『落ちついてシャトルを見ろ』って言われるもん。わかってはいるんだけどさぁ……」
わたしはびっくりした。
バドミントンでは、向かうところ敵なしのアカネちゃんだ。
そんな風に弱気な顔を見せるなんて、はじめてのことだった。
「そんなことないよ!」
気づけば、わたしは大きな声を出していた。
アカネちゃんは驚いた顔をしている。
「バドやってるアカネちゃんは、強くてかっこよくて……わたしのあこがれだもん! どんな相手も倒しちゃうアカネちゃんはすごいんだから! だからまとめテストなんて簡単に乗り切っちゃうんだから!」
一気にわたしは言って、息を切らせていた。
こんなに大声を出したのは、はじめてかもしれない。
アカネちゃんはあっけに取られてしばらく目をパチパチさせたあと、にっこり笑った。
「ありがと。ヒカリちゃんにそこまで言われちゃ、がんばらないわけにはいかないねー。次、ここ教えてくれる? ヒカリちゃんの説明、ていねいでわかりやすいよー」
アカネちゃんはシャーペンで問題を指し示す。
わたしはアカネちゃんにそう言ってもらえたことが嬉しくて、口元がにやけそうになってしまった。
「あ」
ふと浮かんだ考えに、小さく声がもれる。
「どうしたの?」
不思議そうに顔を上げるアカネちゃんに、わたしは「なんでもない」と返した。
確かめるのは今夜だ。