恋人ごっこ幸福論





「はぁ~~疲れた~」



あえてはっきりきつめに応対したからか、店を出ると一気に疲れが出てきた。


別にわざわざ無理に会って伝える必要なんてなかったのかもしれない、でも私にとっては必要なことだった。私が、前を向いていくためには。

結果的には、向こうからしつこく接触しようとしてきていたからはっきり伝えられて良かったし。会いたくないけれど、会いに行ったことは間違いじゃなかったのかもしれない。



「あ、」



家に帰る途中、橘先輩からLINEが来た。

今日もう一度黒川くんに会うことを彼には伝えていた。細かいことは今は話せないけれど、嫌な過去と向き合いに行ってくる、と。


"無事終わった?"



今休憩中かな、たった一言彼からのメッセージを見るだけでじんわりと苦しかった胸がほぐれていくようだった。

なんだか、無性に橘先輩に会いたい。

今から会えないことなんて分かっているのだけれど、それなら……。

来たLINEに"終わりました"と返信を打つ。少し迷って、"少しだけ声が聞けませんか"と続けて送った。

その数秒後、着信音が鳴る。橘先輩からだ。



「も、もしもし」

『橘だけど、どうした?』



電話、本当にかかってきちゃった。

ただ安心して、どこか人恋しくなってしまって思わずそんなことを送ってしまったけれど、本当にかかってくるなんて思っていなかったから。

どうしよう、迷いつつも正直に伝えることにした。



「ただ、先輩の声が聞きたくなっちゃって。結構…疲れちゃったから」



突然こんなこと言われても困るよね、呆れられたって全然いい。

なんだそれって笑ってくれたら、それだけで気は落ち着きそう。そう思っていたのだけれど。



『頑張ったからじゃない、お疲れ様』



思っていたより真剣で、優しい言葉が返ってきて。ずっと抑え込んでいた何かが一気に込み上げてくる。



「……っ、うん。ありがとう、ございます」

『え?泣いてる?』

「ううん、泣いてない」

『……めっちゃ鼻声だけど。ったく、大丈夫?』

「はい」

『そっか、じゃあ大丈夫か』



優しくそう言ってくれる声は、全部分かってくれているような、そんなふうに聞こえた。


先輩に、相応しい人になりたい。私のことを見てくれるこの人に相応しい人に。

だからもう忘れるんだ、今日で辛かったことは全部。