恋人ごっこ幸福論




「はい。先輩が一緒にいてくれたから大丈夫です」

「そう。それならいいけど…」



安心させようと笑って返事をすると、一旦先輩は言葉を切る。そして、言葉を選びながらゆっくり告げた。



「緋那は1人じゃないんだからもっとみんなに頼っていいんじゃない」



それは、直接的ではないけれどこの前のことも含めてもっと相談してほしいという意味が込められているようだった。

私の中学時代の辛い記憶は、橘先輩も勿論何があったかまでは詳しく知らない。

英美里ちゃん、紗英ちゃんに至っては、自殺を考えていたことすら伝えていない。話したらこんな自分に失望してしまうんじゃないか、そんな訳ないのに何処かでそう思っているから。

それに過去は過去だから、今一緒にいるみんなには話す必要なんてないと思っていたし―――と言いつつも、結局今でも引きずっている現実がある。

私とこれからも一緒にいてくれる気なのかな、最近そんな期待ばかりしてしまっている。だからなのか。



「いつか…話せるようになったら、聞いてもらえますか」



橘先輩に、聞いてもらいたい。

こんなの甘えだし負担になるって分かっているのに、抱きしめられて得られた安心感が恋しいのか、ついそう言ってしまった。



「うん、わかった」



穏やかな声色で言われたその言葉が嬉しくて、きゅんと胸が甘く締め付けられた。

こんなに甘やかされていいのかな、ただ好きな人が自分に向けてくれる優しさが嬉しい。

そこまでして貰える理由なんて―――自分が思いつくのは1つしかない。



「橘先輩は…どうしてそんなに私を気にかけてくれるんですか」



思い切って、その意味について尋ねてみる。本当はこんなところで聞くつもりなんてなかった。

この前黒川くんに邪魔されて聞けなかった先の答え。もう一度聞くなら、今だと思ったのだ。



「それは―――……」



橘先輩が答えようとした時だった。急に背後に人の気配を感じて、咄嗟に振り返る。



「やっと……やっと見つけた~」



橘先輩の肩をしっかり掴む、半泣きの菅原先輩が膝から崩れ落ちるように座っていた。