「…っ、気の所為ですよ。全然いつも通りです」
「どこがだよ。今日ずっと俺と目合わせないじゃん」
さらに顔を近づけられて、頬まで熱が籠ってくる。
それ、この前のデートの時の橘先輩にも同じこと言えるじゃない。そう言い返したいところだけどそれどころじゃない。
こんな格好良い人に私はあんなことを、そう思うとやっぱりもう無理、見ていられない。視線を逸らすと、正直に気持ちを伝えた。
「だ、だって…この前、ぎゅっとしてなんて言っちゃったし、泣いちゃうし……思い出すと恥ずかしくて」
何しょうもないことを言ってるんだ、と思うけれどこう言うしかなかった。
そもそも自分から仕向けたことだったのに、後になってからこんなこと言われるなんて面倒にも程がある。
この前の橘先輩もこんな気持ちだったのかな、色々試すみたいなことして悪かったな、なんて今更反省する。
また呆れられてるんじゃないか、そう思って慎重に彼の顔を見上げようとすると、ふわっと髪を撫でられる。
「そういう時だってあるんだから、気にすんなって」
優しく乗せられた彼の手を見ると、呆れてなんかいない、乗せられた手と同じ妙に優しい顔をした彼の姿があった。
この前から、本当にどうしちゃったんだろう先輩。
以前までだったら、絶対何言ってんだって顔してたじゃない。
ああ、でもそんな態度を取りつつも結局は優しくしてくれてたからそんなに変わってないのかもしれない。でも、もっと素直じゃなかったのに。どうして。
分からないと思う気持ちと同時に、期待してしまう感情もあってどう返事したらいいのか迷ってしまう。
