「ちょ、」

「え?」



私が何か反応するより先に橘先輩が声を上げる。
先輩、ちょっと顔赤い、気がする?



「別にたまたまだよ。いきなりまた訳分かんないこと言ってるから動揺しただけ」

「いつものことじゃないですか」

「そういう日なんだよ」



そう言うと橘先輩は無理矢理切り上げて、ほら行くぞと建物の中に向かっていく。

……これはもしや、この前のこと気にしてる?

一緒に帰った時はなんだかんだ平気そうに見えたのに。逆に数日経って意識してるのだろうか、だとしたら。



「?おい、大丈夫か」

「あ、すみません。行きます行きます!」



なかなか着いてこないから心配になって振り返ってきた先輩の傍に行くと彼の左手を握る。



「行きましょう」

「…っ、うん」



手を握った時、少しだけ動揺した彼を見て確信した。


先輩めちゃくちゃ私のこと意識してる。絶対してる。

いつも私が些細なことでドキドキし過ぎてるのに、今日は先輩が意識してる。これってチャンスでは。

いつも先輩に弄ばれてるんだ、今日は逆に私がドキドキさせられるかもしれない。


……といっても、私もまだドキドキしているから大したことは出来ないけど。手を繋ぐくらいなら慣れてきたもの。

じっと彼を見上げた時にようやく目が合うけれど、橘先輩は戸惑ったように、また目を逸らす。

なんか可愛いな、今まで何ともなかったのにあの日のキス未遂でこんな風になるなんて。(しかも自分からしておいて)

でもさすがにあれで何ともないのもそれはそれで辛いから良かったのかも、ちゃんと彼女として見られているようで。

少しぎこちないけれど、何処か機嫌が良さそうにも見える隣の彼を見てそう思った。