「…なあ」

「あ゛?なんだ」

「これ以上困らせる訳にもいかないし…もう喧嘩するのやめないか」



奴の隣でイラついていると、唐突にそう提案してくる橘に吃驚する。

やっぱりその顔から何を考えているのかまでは読み取れない。



「別に俺はしたくてしてんじゃ、」

「別に好きじゃないって言ったのは俺が悪かった。八乙女からしたらいい気しないよな」



コイツ、もしかして今反省してたのか。

黙って窓の外を見つめるその顔は、こうなった緋那のことを考えていたのか。どんな気持ちで見つめているのかは俺には正直分からない。

けど俺に応えたその声は若干弱々しく感じた。何か思うことがあるように。



「…分かってんだったら別れろよ」

「それは無理」

「はぁ!?テメエ…自分が何言ってるか分かってんのか!?」



無理という言葉だけははっきり強く言う橘に、思わず身を乗り出して詰め寄ると不快そうに眉を寄せてくる。



「分かってるよ。でも無理なもんは無理。別れる気はない」

「分かってねえだろ!何が無理なんだよ、言ってみろや!」

「単純に別れたいと思ってないからだよ!はっきり好きかどうかなんて俺はすぐに分かんねえし」



前言撤回、やっぱり反省してねえ。だったらそんなこと普通堂々と言えるはずない。

ぐっと握りしめた拳が出そうになった時「だけど、」と橘が言葉を繋ぐ。