「…別に何とも思ってないって言ったことは一度もない。ちゃんと好感はもってるけどそれじゃ駄目?」
当たり障りなく応えた橘先輩に玲央ちゃんは鼻で笑う。
まあ、やっぱりそうだよね。想像していた通りの応えだけれど玲央ちゃんがこれで納得する訳はなく。
「ふーん。好感はもってる…ねえ。まあ応えただけよしとするか。でも今更言っても遅いんじゃねえか」
「何が」
「見てみろよ、周りの奴らは俺と緋那が付き合った方がいいって言ってるぜ。俺の方が緋那のことを思ってるからな」
玲央ちゃんは周囲の自分を応援する人達を味方につけて、更に挑発する。
まだ玲央ちゃんを推す掛け声を止める気のない人達からは同調する言葉が飛び交っていた。
「…そうだな」
「おう、納得したか」
「じゃあこれ以上ふざけた事言わないよう黙らせるか」
「あ?」
「ちょっとじっとしてて、」
「え?」
橘先輩の告げた言葉の意味など考える余裕もないまま、橘先輩が私に向き直る。
気がついた時にはすぐ目の前に橘先輩の顔があって、周囲からは悲鳴のような叫び声が聞こえた。
「誰が何と言おうとこいつは…"緋那"は俺の彼女なんだよ。分かったか」
「キ、キスした……!!」
え、キ、キス……?
というか今私のこと緋那って…しかもさっき橘先輩の顔がすごい、目の前に……。
あまりにも一瞬で色んなことが起きすぎて脳内が追いついていかない。
「おま…っ、緋那に何しやがんだ」
「悪いかよ」
「悪いに決まってんだろ!勝手に!離せ!」
「げっ…逆効果か。!?おい、」
もう、訳分からない。
橘先輩と玲央ちゃんの言い合いと周りが騒ぐ声が聞こえる中、急に目の前がぐるぐるして、橘先輩が叫ぶ声を最後に記憶が途絶えた。
