恋人ごっこ幸福論





「は、離してよ!無理だって言ってるよね」

「離さねえ。…友達の立場から外堀を埋めていこうと思って、無理に接触しないようにしてたけどやっぱり無理だ。
緋那が他の男の、ましてや緋那のことなんとも思ってない男のとこに行くなんて耐えられない。
どうしても好きなんだ、頼むから俺のことを選んでくれよ」



最後の方は弱々しく、懇願するような声でそう言う玲央ちゃん。

そこまでするくらい私のことが好きなんだ、そう気づくと困惑と申し訳なさでいっぱいになる。


腕を引き離そうにも、やっぱりビクともしない。私が振った後中途半端に仲良くしてしまったから、変に期待させてしまったのだろうか。

だとしたら私の責任もあるかもしれない、でもそれでも気持ちには応えられないのだ。



「玲央ちゃん…そんなこと言われても、」

「やっぱり八乙女先輩の方がお似合いだよ」

「八乙女くん頑張れ、その調子!」

「え!?また!?」



もう一度はっきり断ろうと思った矢先、周囲から玲央ちゃんを応援する声が聞こえて困惑する。何度注意しても現れる厄介な人達にうんざりする。

でも、だからといって自由にはさせられない。



「ちょっと、勝手なことばっかりいい加減に「全然お似合いじゃねえよ」



一旦周囲を止めようとした時、橘先輩が黙らせるかのように声を上げた。



「さっきからくだらないことばっか言いやがって。外野がゴチャゴチャ言うな馬鹿」



橘先輩は玲央ちゃんを応援する言葉をかけた人へ軽蔑するような目を向けると、彼女達はビクッと肩をあげて黙り込む。

私を抱きしめる玲央ちゃんの腕を掴みながら、今度はその目を玲央ちゃんへ向けた。