恋人ごっこ幸福論





「いたいた、緋那ちゃん!」

「え?菅原先輩!」



今橘先輩と中庭にいたはずじゃ…ちらっと窓の外に視線を向けるとそこには橘先輩の姿もない。

いつの間にか移動していたようだ。菅原先輩も久しぶりに会うな、こっちこっち、と廊下から手招きする菅原先輩の傍へ行く。



「お久しぶりですね、どうかしたんですか?」

「ちょっと緋那ちゃんと話したくて、はいこれあげる」



菅原先輩から手渡されたのは、500mlのスポーツドリンクだった。



「ありがとうございます…でも、なんで? 」

「えっと、緋那ちゃん最近寝不足なんだって?ちゃんと水分取らないと倒れるよ。…緋那ちゃんのこと、心配してる奴もいるからさ」

「え…」



菅原先輩が付け加えるように告げた"心配してる奴"に思わず目を瞬かせたとき、菅原先輩から少し離れた所にそれらしき彼の姿を見つける。



「橘と、話してやってくれないかな」



申し訳なさそうにちらっとだけ視線を向ける橘先輩の姿を見ると、何処か安心する。

先輩も同じように思ってくれていたんだ。隣でハラハラしている菅原先輩へ向き直る。



「ちょうど私も話したいと思ってました」

「なら良かった、じゃあ緋那ちゃん」



頼んだよ、とガッツポーズをする菅原先輩を背に橘先輩の前まで進む。