「最近の八乙女先輩、妙に来るわりにはあっさり帰るよね」
「橘先輩とひぃちゃんが喧嘩してるから余裕なのかしらね。案外狙ってたのかもよ。大袈裟に邪魔して2人の仲が悪くなるのを」
「ま、まさか〜…」
私への接し方について特に考えがあるなんて思ってなかったけど、わざとしつこくしてたってこともあるのだろうか。
私と橘先輩の仲を邪魔して付き合うのを辞めさせたいって言ってたけど、それってこういうことだったのか。
あながち英美里ちゃんの言うことが当たってるかもしれない、と少しだけ思った。
「……もう少し前からこの距離感で居てくれたら良かったのに」
「気持ちは分かるけど起きたことは悔やんでもしょうがないわよ。せっかくしつこくなくなったんだし、いい加減橘先輩に連絡してみたら?」
「うーん…そうなんだけど、」
そんなことは分かってる、いつまでも喧嘩している場合ではないってことも。今なら喧嘩する理由なんてないんだし、さっさと仲直りした方がいいことも分かってる。
でも橘先輩だってどうかと思う、向こうから連絡してくれたって構わないのに、全く連絡ないんだもん。
「…緋那ちゃん、橘先輩。下に居るっぽいよ」
「本当だわ、なんか数日見てないだけで久々感あるわね」
「え!どこ!」
意地張ってたって、名前を聞いたらすぐに反応してしまうくらいやっぱり好き。
窓から中庭を見下ろす紗英ちゃん、英美里ちゃんに促されつい身を乗り出して中庭の方を見てみる。自販機の前で菅原先輩以外の友人と話す姿は、至っていつも通りに見える。
元気そうでよかった、喧嘩前は悩んでいるようだったから。
こんなことになっているのは辛いけど、先輩がいつも通りに過ごせていることは素直に嬉しかった。
