「まああたしはちょっと緋那ちゃんの気持ちも分かるけどね。はっきりしろやって思うわ」
「紗英ちゃ~ん…」
「たださ…ちょっと周りがね」
「?周りって」
紗英ちゃんがちらっと横目を向ける廊下にそっと視線を移すと、数人の女子生徒がこちらを見ながら話をしている。
何だろう、やっぱり玲央ちゃんかな。少し前から変に噂されてたしまだ何か言われてるのか、と思ったとき。
「八乙女先輩の方がお似合いだよね」
え?まさか、と思い声がした方に視線を向けると、別の女子生徒が「あ、目合っちゃった」と悪びれずに言う。さっきのは私に向かって発言しているのだと分かった。
「ごめん、悪いけど橘先輩より八乙女先輩の方がお似合いだなって思って」
「ね。幼馴染なんだっけ?素敵だと思う!ずっと好きで居てくれて、会いに来てくれるなんて。空気感も良いしこっちと付き合った方がいいよ」
「な………」
何を勝手な…それ本人に向かって言うの失礼だと思わないのかな。
玲央ちゃんが頻繁に会いに来る理由を知った人達の中には、どういう訳か玲央ちゃんを応援しようとしている人がいるのだと紗英ちゃんが教えてくれた。
「…お前ら、見る目あるな」
「玲央ちゃん!」
女子生徒達に感心する玲央ちゃんがこれ以上余計なことを言わないように制してから、彼女達の方を向く。
「あの、私はそんな気ないので勝手なこと言わないでもらえませんか。困ります」
「ええー…本当に合ってると思うんだけどなぁ。分かったよ、ごめんね」
渋々引き下がってくれた女子生徒達が去っていくと、自然と溜め息が漏れる。もう嫌、なんでこうなるの。
「今はそんな気になれないかもしれないけど怒ってる場合じゃないわよ」
「うん…」
確かにこのまま変な話が広まっても困る、これはまずい、早めに仲直りしなくちゃ。
……そう思っていたのだけれど。
