「橘先輩」

「ん、やっと来たか」



傍に行くと視線を上げてスマホをポケットに仕舞う彼。

今日からテスト期間で勿論部活もお休み。その間一緒に帰ってくれることになったのだ。



「わざわざ1年の靴箱まで来てくれなくてもよかったのに」

「1番合流しやすいだろ。この天気だから校門周辺では待ってられないし」

「うーん、まあそれもそうか…」



そう考えれば確かに待ち合わせ場所としてはベストなのかな、と納得する。


…それより、さっきから背後が気になって仕方ない。

ちらちらとこちらに向けられる女子生徒達からの視線。どうやらみんな橘先輩のことを見ているようだった。


橘先輩は素っ気なさと無愛想なのが原因で女子からあまり好意を寄せられたことがないと聞いている。

とはいえ、ルックスに関しては誰もが目を見張るレベル。この鬱陶しい天気がバックに見えていても、彼の姿を目にするだけで爽やかな気分になってしまうもの。


相変わらずバスケ部の見学に来てる人も多いし、彼女達が橘先輩に好意があるかは分からないけれどここに佇んでいたら目がいくのも無理はない。

…ただ、その隣にいきなりやって来た私はどう思われているか分からないけれど。



「じゃ行くか」

「はい」


収まりそうにもない雨風が吹く中、傘を差して並んで歩いて帰る。

考えてなかったけれど、2人で帰るのって結構視線を集めるんだよなあ。

別にこれといってなにか不都合なことがある訳でもないけれど、以前周囲に見られるのは恥ずかしいといって人目につかないところでお昼ご飯を食べることにしたのを思い出すと、なんだか今の行動って矛盾している気がする。