春。
川沿いの桜並木を私は歩いている。

「ママ、お花が雪みたいだね」
「そうね。綺麗ね」

風に舞う花びらに、小さな手を伸ばす息子。
平石遥(ひらいしはるか)と言う。
私と賢介さんの宝物。

「あっ、パパ」
遥が駆け出した。

「転ぶから、走らないで」
とっさに声をかけたけれど、

ドンッ。
遥は豪快に転んで見せた。

「もー、だから転ぶって言ったのに」