どう見ても平石家に不釣り合いな私。
ではなぜ、ここにいるのか?
それにはそれなりの理由があって・・・

まず、私には父がいない。
生まれたときからいなかった。
母がシングルマザーとして、私を産んだからだ。
その母も私が4歳の時に病気で亡くなってしまい、その後は一人暮らしの祖母に引き取られた。
正直、貧しかった。
高齢の祖母はすでに年金生活をしていたし、私の世話をするほど体が丈夫でもなかった。
私は小さいころから自分のことは何でも自分でやって、中学の終わりころからはアルバイトもしていた。
もちろん子供のバイト代で学費生活費がすべて賄えるはずはなかったが、私には秘密のあしながおじさんがいて、学費と生活の一部を援助してもらっていた。
あしながおじさんは匿名で、弁護士さんを通じて1年に1度まとめて学費が振り込まれてきた。
中高の頃は頼みもしないのに学費を送ってくることを、煩わしく感じたこともあった。
学費や授業料を振り込まれれば嫌でも勉強しないわけにはいかないからと、負担に感じることも正直あった。
でも、お陰で国立大に現役合格出来たのだから文句は言えない。
そして、その足長おじさんが社長と奥様だった。
奥様の話によると母と奥様は大学の同級生で、とても仲のいい親友だったらしい。
大学卒業後一旦は音信不通となり、その数年後奥様は病床に伏せる母と再会した。
その時、病室の中を走り回る私を見ながら、涙が止まらなかったそうだ。

「お願い、近い将来一人になってしまう娘を気にかけて欲しい」
自分の最期を悟った母が手を合わせ、奥様は、「大丈夫。任せておいて」と約束した。

母の出した条件は、
将来は自分で決めさせて欲しい。
金銭の援助は最低限にして欲しい。
あくまで、藤沢琴子として育って欲しい。
考えてみれば随分虫のいいお願いだけど、奥様は「わかったわ」と同意した。