麻衣は知っている。
いろいろな企業のイメージキャラクターになったり、歌以外の仕事も最近は増えている理久。
やりたくない仕事だって本当はあるはずだ。
それに、麻衣も同じような経験がたくさんある。
自分のやりたいヘアメイクではないものも、仕事だからと言われたとおりに、まるで自分の心を置き去りにするようにしながら仕事をすることだってある。

『俺はただ、好きな歌を歌って、大切な人の隣で、あたたかい場所で、飢えない程度に稼いで食べられたら、それでいいのにな。』
声が悲しそう・・・。

『5年って決めてたんだ。5年はがむしゃらに、やりたくないことだって、頑張るって決めてた。それで結果が出なければきっぱり歌はやめようって。もしも結果が出せたら、本当にやりたいことだけをやろうって。大切な、一番失いたくないものを守れるようにって。』
麻衣の瞳から次々に涙があふれ出す。

『俺を想って背中押してくれた気持ちにこたえられるようにって。』
羽ばたいてほしい。誰も持っていない大きな翼をもっている理久に。
自由に羽ばたいてほしい。
そう思って背中を押した気持ちは今も変わらない麻衣。

理久は・・・すべてを知って羽ばたいたんだ・・・。