『もしもし』
すぐに電話に出たその人の声に麻衣は泣きそうになるのを必死にこらえる。
「どうして?」
『ん?』
優しく聞き返すこの声も、麻衣を一気に過去に引き戻す。
「ニュース見た。どうして?何かあったの?」
麻衣の言葉に電話の向こうで黙る理久。
「理久。教えて。」
『ずっと決めてたんだ。』
「え?」
『ずっと決めてた。5年。あの日から5年。』
麻衣と理久が別れてから5年。
『近い関係者にはずっと言ってたんだ。5年たったら俺は表舞台から降りるって。そもそも俺は歌がやりたいんだ。なのに・・・それだけなんてできないんだよな。この世界は。厳しいよなー。』
開き直ったように明るく振舞う理久。
でも、本心はそうじゃないとわかってる。
『ただ、俺は歌いたい。でも、それだけじゃ前に進めなかった。』