「こちらこそ、お世話になりました。」
稜真に連絡をしてきたのは理久だ。
『あの、野川さんはいらっしゃいますか?』
「どのようなご用件でしょうか。」
『連絡したかったのですが、繋がらなくて。加藤さんはご存じかと思いまして。』
稜真はフロアから出て、非常階段の扉を開けて外に出た。

新鮮な空気は少し冷たくて、大きく深呼吸をする。

遠慮がちな理久の声に、高まる感情を抑えながら話を続ける。
「どのようなご用件でしょうか。今、野川は席を外しています。」
『そうでしたか。でしたらお戻りになりましたら連絡が欲しいと伝えてくださいますか?』
「わかりました。」
すべて、知っているのに、理久よりも知っていることが多いのに、稜真は知らないふりをする。
『では、失礼します。』
「はい。・・・あの」
通話を切ろうとする理久に声をかける稜真。