時が、止まった。
 見開いた己の視界には、勇者ロヴァルのまつげ。シャンデリアの光をまとってキラキラときらめく金色のそれは、とても美しい。

「っ! な!」
「婚姻成立。お前は正式に俺の嫁だ」
「何がだ! たかが口付けひとつでそんなもの」
「国王の前で誓いの口付けを交わすのがこの国の婚姻におけるならわしだ」
「はぁ!?」

 なんて思った数秒前の己を焼き払いたい。骨も残らないほどに。

「……なぁ、おい、にんげ……じゃない、ロヴァル」
「あ?」
「一度落ち着いて話をしよう。逃げないと約束するから、一先(ひとま)ず、おろしてくれないか」

 しかしここで取り乱しても、何の意味もない。
 ゆっくりと深呼吸をして、勇者ロヴァルの青い瞳を凝視すれば、何故か舌打ちをされた。ものすごく、忌ま忌ましそうに。
 だけど、僕の言葉を無視するわけではなかったらしい。そろりとおろされて、手枷はそのままだけれど、勇者の真横に己の足だけで立つ。

「まず、だな。ロヴァル」
「……んだよ」
「お前は、僕に惚れてなどいない」
「……」
「そういう、呪いだ」

 聞いて(おのの)け。
 わざわざ言葉にはしないが、そんな意味合いも含ませてこのカオスな現状を招いたからくりの種明かしをすれば、何故だろうか、三度目となる例のあの顔をされた。