いけません、凪様

 凪様に迷惑をかけたくなくて、どう言おうかと悩んでいると、ふわふわな茶色い髪が特徴的な友達の相模友里(サガミ ユリ)が真由子のことを手で指して


「きっと、それをしたのはその子だと思います」


 すると凪様は目をつりあげて真由子を見る。そして、元々低い声を更に低くする。


「それは本当か?」


 これは凪様怒ってる。
 話し方も威圧的になってるし。

 真由子を見ると、怯えたように顔を歪めていた。
 真由子のことはどうでもいいけど、凪様はここまで教科書を持ってきてくれた。それだけで、もう既に面倒をかけているのに、これ以上面倒をかけるわけにはいかない。


「凪様。もう大丈夫ですので、教室にお戻りください。授業が始まってしまいますよ」


 教科書を机に置き、できる限り笑顔で伝えると、凪様はさっきと同じ低い声で短く「着いてこい」とだけ言い、私の手首を掴み歩き始める。
 怒っているのに、その手つきは優しい。

 けれど授業が始まってしまうので


「もう授業が始まってしまいます。お叱りならあとで受けますので、今は教室にお戻りください」

「今じゃないと駄目だ」


 こうなったら、この方は頑固なので無理だと諦め、「かしこまりました」と言い、大人しく着いていく。
 そして教室を出る直前、真由子に向かって


「今回は美波に免じて許してやる。けど、次はないからな」


 真由子の返事を聞くことなく教室を出る。