いけません、凪様


「あの、凪様。この手は一体……」

「こうやって恋人みたいなことをしたら、美波が意識してくれないかと思って」


 少し意地悪そうに微笑んで凪様が言う。
 私にとってはただ困るだけのことだけど、こんな素敵な方にこんなことを言われたら、世の女性は喜ぶのだろう。


「私が凪様のことを好きになることはないと思いますよ」

「ないと『思う』だろ? なら、まだ可能性がある。あ、美波の教室着いたぞ」

「送ってくださりありがとうございます。本来なら私が凪様のことをお送りしないといけないのに」

 頭を下げてそう言う。
 すると、凪様に頭を上げさせられる。


「美波の教室の方が近いんだ。だから気にしないで」


 そう言って、凪様が手を離す。

 それをなんだか寂しく感じる。
 って、寂しいって何!
 そんな風に思っちゃ駄目なんだから!

 そんなことを思ってると、凪様は「じゃあ、また後で」と言って、手をこちらに振ってくる。
 私はそれに再度頭を下げる。
 三秒程経ったところで頭を上げると、凪様は自分に教室に戻るために歩き出していた。

 凪様の背中を見ながら、これが夢であればいいのにと思う。

 すると凪様が振り返る。
 今の声に出てたのかと思って、何か言わなきゃと思ってると


「言い忘れてたけど、今度あの子含めて誰かに嫌がらせされたら俺に言ってくれ。これは命令だから」


 ここで嫌だと言ったら話が長くなりそうだし、何より命令だと言うのなら逆らう理由がない。
 そう思って「かしこまりました」と言うと、凪様は満足気に笑って、再び歩き出した。