もう二度と会うことは無いと思っていた。

私は真っ直ぐ俊介を愛して、俊介と音楽と生きていくのだと思っていた。

それなのに。

「奈生ちゃん。」

懐かしい声は私を呼んだ。

突然目の前から消えた私を見つけた。

そして、彼は泣いた。

無視をすればよかったことかもしれないけれど、彼の涙を見た時どうしてもそれが出来なかった。

だから私は彼を自分の部屋に連れてきた。

やつれたようにも見える彼の姿に心が痛んだ。

そしてそんな彼は家出をしたと言った。

「家出って…どうしてですか?」

「父さんと、喧嘩した。」

「喧嘩って…でもだからって家出する必要は…」

「子供みたいって思った?嗤う?」

少なくともマスターと優登さんは私から見たら素敵な親子だった。

マスターはいつも優登さんのことを心配していたし、優登さんはそんなマスターのお店を手伝っていた。

いつも出勤する度に何て仲のいい親子なんだろうと羨ましく思ったこともある。

時々、口論になりかけることもあったが互いの信頼関係がしっかりしてるからかすぐにおさまって。

それなのに、どうして。

「奈生ちゃん。俺、帰る場所が無いんだ。」

優登さんが自嘲気味に笑う。

優登さんのそんな笑顔は初めて見た。

「奈生ちゃん、俺をココに置いてよ。」

「え?」