俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う


ほんのわずかに口角を上げた社長に、鼓動が跳ねる。
そのまま長い指が絡んできて、優しく握られた。

(結局社長のペースに乗せられて、手なんか握っちゃって……でも、拒否できない)

ドキドキしながらなんとか『ボロ屋付近』の行先を伝えると、車は走り出す。
その間も指先から手の平から彼の体温がじんわりと伝わってきて、彼の言葉通り心拍数が落ち着いてきた。

社長は本当に落ち着かせようとしてくれてるのか、無言だ。
私もどうしたらいいか分からず、手を握ったまま口をつぐむ。

会社からボロ屋は車で一分。
そう、残り時間はほんのわずかだ。

(ダメだと思うのに、こうやって体温を感じると心地がいい。
面白がられてるのに、大切に扱ってくれると、嬉しく感じてしまう)

目をつむると、浮かんできたのは先程言われたの藤堂快の言葉。

『お前は捨てられないように絶対に仕事はちゃんとするだろ。
他のやつとは違って、上辺だけではなく心底俺に惚れてるようだから』

一体、いつそんなことを思ったんだろう?
最近の彼の一挙一動に振舞わされ、拒否できずに恥ずかしがったり動揺していたからだろうか。
っていうか、絶対それしか考えられない。

(さすがに自信満々すぎない⁉ うう、悔しい。悔しすぎる……好きなのかな、この人のこと)

藤堂快に対する気持ちと、家の問題で気持ちがぐちゃぐちゃだ。

(私、きっと近いうちに、この人の元を離れなくちゃいけなくなる)

ズキッと胸が痛んだ刹那、見慣れたマンション街に車が入っていった。

「この辺か?」